敗戦前後の記憶-13

溝口 浩

戦時の旅-2

 

閑話休題、何時間も待ってやっとやってきた汽車は超満員で、僕と弟は窓から投げ込まれたが、中にいる人たちも慣れたもので、ちゃんと受け取ってくれて、立錐の余地も無い所に立錐くらいの場所をあけてくれたが、父と母が乗れたのかが不安で、入り口付近を眼で追ったけれど、人の塊で見えるわけもない。とたんに弟が「ぶうぶちょうだい」と叫ぶと、彼方から父の声で「今、ぶうぶちょうだいと云った子をこちらにお願いします」。すぐに周りの人たちが反応して「坊やいくぞ」と弟と僕を担ぎ上げて、頭上の手渡しリレーが始まった。されるがままに足を縮めて空中を送られていったが、弟はともかくこちらはそれなりに体重もあって、おじさんたちにも手軽に扱えるわけもなく、落ちそうになったり弁当に足を突っ込みそうになったりしながらも、無事父の元に舞い降りた。そこには生後一ヶ月の妹を抱いた母の笑顔が待っていて、隙間とて無い空間に親子再開の喜びの輪が広がった。この空中散歩の途中で、背負っていたランドセルの肩紐が切れて、それ以降の道中で背負うことが出来ずに難儀をすることになる。

…つづく