つららの坊や-1

溝口 浩

 

「エレベーターにその男が乗ってきた時、誰も注意を向けなかった…」傍らで揺らめくローソクの炎に見守られながらの語りが静かに始まると、この日を楽しみに集った聴衆は、瞬く間に「蔭山武人の世界」に誘いこまれてゆきました。2009年3月14日の夜、越中八尾でのお座敷遊びは「春風のぼん」。八尾の「風の盆」のおどり、唄、それに胡弓と三味線のお囃子を楽しんだ後はお目当ての蔭山武人、そして地酒と地の物の食事会が夜更けまで続きました。

蔭山武人さんの朗読といえば忠臣蔵と相場が決まっているのに、今回は森村誠一の「人間の証明」、主人公が当地の人で作者が執筆したのも当地の宮田旅館とまさにご当地の作品なのです。地元の方々のリクエストとはいいながらこの複雑な話を短時間にどのように語るのか、もしかしたら抜き読みか、と思いを巡らせていたのですが、要所を押さえて纏めた見事な語りに息を詰めて聴き入り、語り終えた後の静寂がここちよい心の広がりを醸成してくれていました。

 

蔭山夫人の美貴子さんに誘われて千葉県から夫婦で参加したこの集いは、期待をはるかに超えた嬉しさを与えてくれたのですが、この旅の不思議さはその後に予想もしない出来事と青木新門さんの童話「つららの坊や」との出会いが待っていたのです。

…つづく