音楽に支えられた人生―12

ドボルザーク                             浅香匤可

チェリスト・天地芳雄

母が蒲田時代の若い頃・・・昭和の初め。まだ私が生まれる前の話。・・・大分時代からの仲の良い母の友達に安東さん・・・という方が近所に住んでいた。その方のご主人が・天地芳雄・といって当時は数少ないチェリストの一人だった。

この天地さんの弟は当時NHKの喉自慢の番組でピアノの伴奏を受け持った天地真佐雄。アコーデオンの荒井エイセイと共に今でも続いている喉自慢の番組に長いこと出演をしていた。兄の天地芳雄は弟の天地真佐雄に比べるとチェリストという地味な存在だった。

ある時、おじさんに聞いたことがある。

「どうしてオーケストラの一員にならないのですか?」

おじさんはこう答えた。「私はチェロを自由に弾きたい。特定のオーケストラに加わると自由も利かないし、演奏曲目も限られる。でも日常、結構それぞれのオーケストラでお呼びがかかるのでそれなりに忙しい。」

私が学生の頃は安東さんの家族は五反田の池田山に越された。(高台で、すぐ真下が正田家の屋敷だった。)

母に連れられてたびたび五反田の安東さん宅を訪れたが、ご主人の天地芳雄さんは、よく庭に出て薔薇の手入れに没頭している姿を見た。それでも日常はチェロの練習に一日の大半の時間を費やしていたようだ。

今は故人となってしまったが、私は行くたびに「おじさん!ドボルザークの協奏曲弾いて。」・・・とすがって、よく弾いて聴かせてもらった。

「たーちゃんはドボルザークが好きだね。」

あの、何ともいえない異国情緒たっぷりの哀愁を帯びたメロディー・・・1楽章、2楽章、3楽章と全体を包み込む牧歌的な香りが漂う名曲、天地さんのチェロから奏でる・・・さわり・・・の部分を想い出さずにはいられない。

…つづく